今回は世界で戦う化学メーカーの半導体前工程編をお届けしたいと思います。
半導体は最近、非常に注目されている分野であり、解説もたくさん出ています。
この記事では前半で簡単な概要を説明し、後半では特に半導体に使われる化学材料に焦点を当てていきます。
動画で解説:需要急増中!半導体の前工程で活躍する日本メーカーを紹介【世界で戦う化学メーカー】
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半導体について

まずは半導体の概要です。
半導体は特定の条件で電気を流す性質を持つ物質の総称で、トランジスタ、ダイオード、集積回路など様々な電子部品に使用されています。
近年ではその有用さから、自動車やスマートフォン、PCなどあらゆる製品に使われており、最先端の分野ではchatGPTなどAIの開発に使われるGPUや産業ロボットにも利用されています。
半導体業界の市場規模

半導体は、今や世界中で注目を集めるメガトレンドのひとつです。実際、市場も右肩上がりになっています。
それに比例し、半導体を支える各業界市場も大きくなっています。市場としては半導体製造メーカーが一番大きいものの、化学メーカーの関与が大きい半導体材料メーカーの市場規模も約6兆円と充分巨大な規模になります。
世界半導体市場の地域別推移

次に半導体の地域別、市場規模推移を示します。
市場全体は長期的にみて右肩上がりで、2000年と比較して2022年は市場規模が約3倍にまで成長しています。ここまできれいに右肩上がりになる巨大市場は珍しいのではないでしょうか。
地域別の内訳を見ますと、アジア・太平洋地域の伸びが著しい一方、日本は横ばいで苦戦気味です。
半導体売上の上位メーカー

そして世界の半導体売上ランキングを見てみますと、TSMCやインテル、サムスンなど世界の名だたるメーカーがランクインしています。
一方で日本企業はランキング外になっています。寂しいですね。
半導体の製造プロセス

半導体に使用する部材はどうか、という観点から考えるために半導体の製造プロセスを見てみます。
プロセスは下記の通りです。
- 最初に半導体回路の設計図となるフォトマスクを作ります。
- 次に、半導体の基材となるシリコンウエハを製造。
- その後、ウエハを徹底的に洗いながら回路や配線を形成していく前工程があります。
前工程はそのプロセスの多さから、全工程を完了させるまでに月単位の時間がかかります。 - 前工程が終わったらウエハーを切り出して、普段見かけるようなチップ上にする後工程が続きます。
上記の4工程の後、半導体が様々な製品に使用されるというわけです。
半導体の性能を上げるためにはいかに微細な回路を形成するかが大事といわれているため、今回の記事では回路形成工程である前工程について焦点を当てます。
半導体全工程の詳細

前工程についてもう少し詳しく見ていきます。
前工程は主に下記6つから構成されます。
- ウエハーの表面から不純物を取り除く洗浄工程
- 電子回路になる薄膜をウエハー表面の形成する成膜工程
- 設計された回路をウエハー表面に転写するフォトリソグラフィ工程
- 転写された回路に沿って薄膜を加工するエッチング工程
- シリコンに不純物を注入して電気を通せるようにする不純物注入工程
- 薄膜表面の凹凸を磨いて平らにする平坦化工程
これらの工程を何回も繰り返し、工程が完了したらウエハー検査、問題なければ次の工程に移ります。
半導体前工程に使用する化学系材料

前工程では、ガスや薬品、特殊な機能性化学品など非常に多くの化学系材料が利用されます。
上図では各工程で主に使われる材料の一例を示していますが、これらは様々な国や地域の企業が提供しています。
日本が強い化学系材料

前工程で使われる化学材料の中で特に日本のメーカーが強いとされる材料をピックアップしました。
下記から化学品の用途と、主にどのメーカーが手掛けているかについての解説をしていきます。
産業ガス・各種洗浄剤

1つ目の材料は産業ガス、各種洗浄剤です。
洗浄剤
シリコンウエハーはちょっとしたごみや不純物が不良のもとになるため、不純物を徹底的に除去する必要があります。
そのため、不純物に応じて洗浄剤が選ばれます。
産業ガス
産業ガスは洗浄工程から成膜、成膜層を削るためのガスなど、あらゆる工程で使用されます。
産業ガスはメジャーなものなら窒素や酸素、アルゴン。特殊なものならフッ化メタンなどがあります。
産業ガス、洗浄剤ともに種類が多く、かつ必要量も多いため供給メーカーが多いものの、半導体用途では純度が重要視されるため、純度が売りの日本のメーカーが強い分野になっています。
フッ化水素類

2つ目の材料はフッ化水素類です。
フッ化水素類も産業ガスや洗浄剤に分類されますが、特に重要な物質のため別で解説しています。
エッチングに使う材料は膜の組成によって変えられるのに対し、フッ化水素類はシリコン酸化膜を除去できる唯一の物質のため、基材にシリコンウエハーを使っている限りは代替物質がありません。
また、フッ化水素類の純度は歩留まりに直結するので非常に重要です。
その中で日本メーカー品はトゥエルブナインと呼ばれるレベルの純度を売りにしています。
そしてこれほどの高純度品を製造できるメーカーが、ステラケミファ、森田化学、ダイキンの3社のみといわれているため、シェアも寡占状態になっています。
ガラスを溶かすフッ化水素の重要性は非常に高く、過去に輸出管理を適正にする通達を経済産業省が出したとたん、外交問題に発展したことからもその重要性がうかがえます。
フォトレジスト

3つ目の材料はフォトレジストです。
フォトレジストは光や電子線などでその性質、主に溶解性が変化する化学組成物のことで、配線形成には必須の材料です。
フォトレジストには、光の当たったところが溶解する「ポジ型」と、光の当たったところが溶解しなくなる「ネガ型」の2種類があります。
配線形成を微細化するためにはより短波長の光源で化学変化を起こす必要があるため、近年では極短波長と呼ばれるEUVに対応した材料の開発が盛んに行われています。
世界シェアとしては、日本メーカー5社で9割以上を占めているため、この材料は日本のお家芸と言えます。
マスクブランクス

4つ目の材料はマスクブランクスになります。
上記で紹介したフォトレジストは配線形成を行う材料ですが、配線パターンの型に相当するのがフォトマスクです。
そして、フォトマスクに配線パターンの型を刻む前の基板をマスクブランクスと呼びます。
このマスクブランクスも日本メーカーが強くなっています。中でも光学レンズメーカーのHOYAが圧倒的な強さを誇っていますが、その他の化学メーカーも強く、EUV用ではAGCが、それ以外では信越化学が手掛けています。
上図のグラフ、マスクブランクスのシェアはHOYA発表のものですがA社は信越化学、B社はAGCと推察されます。
ペリクル

5つ目の材料はペリクルです。
ペリクルとは回路パターンが刻まれているフォトマスクにかけるカバーのことで、カバーによってフォトマスク内に異物が侵入するのを防ぎます。
異物が入ると転写時に欠陥が出てくるため、ペリクルを使うことで歩留まりを上げることができるというわけです。
ペリクルの詳細なシェアは不明ですが、三井化学が世界トップとのことです。
三井化学は旭化成からペリクル事業を買い取ったり、EVUメーカーのASML社とEUVペリクルの共同開発を行うなどトップメーカーとしての地位を築いています。
研磨パッド・CMPスラリー

6つ目の材料は研磨パッドとCMPスラリーです。
ウエハーは成膜した表面の凹凸を放置すると配線不良に繋がります。
そのため、表面の凹凸を1層ごとに研磨して平坦化するプロセスが重要です。
平坦化の方法としては、化学薬品と機械を利用した研磨方法のCMPが最適といわれています。
CMP工程はウエハーを研磨パッドに押し当てるときにスラリーを利用すること、ウエハーと研磨パッドの両方を回転させて研磨することが特徴です。
そのCMP工程で使用する化学材料が「研磨パッド」と「CMPスラリー」になります。
研磨パッドのシェアは日本のニッタとアメリカのデュポンとの合弁会社であるニッタデュポンが世界シェア率の7割を持っています。
また、CMPスラリーは世界シェア1位こそアメリカのキャボット社ですが、日系メーカのシェアが約45%とかなり検討しています。
また、日本メーカーではフジミインコーポレッド、レゾナック、富士フイルムなどが手掛けています。
まとめ:半導体前工程材料の主要プレイヤー

最後に、これまでに紹介した半導体前工程材料の主要プレーヤーまとめを図に示しました。
この画像から、フッ化水素やフォトレジストを筆頭に、半導体前工程でも日本メーカーの存在がしっかりあることが伺えます。
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