日本企業の独壇場・フォトレジストを解説【化学業界・テーマ研究】

今回は化学業界のテーマ研究として、半導体の製造に欠かせない化学材料であるフォトレジストについて解説していきたいと思います。

目次

動画で解説:フォトレジストの概要・関連する化学メーカー・今後の動向を紹介【化学業界研究】

動画で見たい方はこちらからどうぞ。

日本メーカーの独壇場・フォトレジスト

フォトレジストといえば、日本メーカーのお家芸と言われるほどに、日本メーカーのシェアが高いことで有名です。

なんと、世界シェアの90%以上を日本メーカー5社が占めていると言われています。

さらに、日本メーカーが強いのはフォトレジストの製品だけではありません。フォトレジストの原料も数々の日本メーカーが支えているのです。

フォトレジストの概要

まずはフォトレジストの概要についてです。

フォトレジストとは、光や電子線を当てることで性質(主に溶解性)が変化する組成物のことを指します。

半導体製造の最重要工程とされる回路パターン形成の際に使用されます。

また、フォトレジストは光が当たった時の反応パターンによって、ポジ型とネガ型に分かれます。

光が当たった部分が溶けやすくなるのがポジ型、光が当たった部分が固まって溶けにくくなるのがネガ型です。

フォトレジストに必要な性能

フォトレジストには下記4つの性能が求められます。それぞれについて説明します。

  1. 塗布性
    塗布性はシリコンウエハー上に均一な膜を形成する性能です。
  2. 感光性
    感光性は光を受けた部分が適切に反応する性能です。
  3. パターン形成能
    パターン形成能は光によって化学反応した部分を選択的に取り除き、どの程度イメージ通りのパターンが作れるかというのを測る性能です。
  4. エッチング耐性
    エッチング耐性はエッチング時にレジストの残された部分がエッチングされることを防ぐ性能で、フォトレジストの耐久性に相当します。

半導体素子の大きさと性能・フォトレジストの線

そして、フォトレジストで最も重要視されているのは、細い線を形成することです。

半導体はトランジスタなどの素子の集積率が高いほど、高性能になります。

そして、集積率を高めるためには回路を微細化する必要があり、回路を微細化するためには、より細い線を描く必要がある為です。

リソグラフィの露光波長と解像度・材料の関係

フォトレジストの線幅を示す解像度は露光波長に比例します。

そのため、光源も下記のような短波長の光源が使われてきました。

  • g線
  • i線
  • KrFレーザー
  • ArFレーザー

そして、露光波長ごとに最適なフォトレジストが開発されてきたという経緯があります。

フォトレジストを支える化学メーカー

続いて、フォトレジストを支える化学メーカーの紹介です。

フォトレジストの組成とレジスト樹脂メーカー

フォトレジストの組成は主にレジスト用のポリマー、感光剤、添加剤、溶剤からなっています。

これらを配合してフォトレジストの樹脂が出来上がるわけですが、冒頭にも述べた通り、フォトレジスト樹脂の世界シェアは日本メーカー5社が90%以上を占めると言われています。

5社の内訳は、1位から順に、JSR、東京応化工業、信越化学工業、住友化学、富士フイルムです。

そして、フォトレジストの原料であるポリマー、感光剤、添加剤や溶剤なども日本のメーカーが強い分野になります。それぞれの原料に焦点を当てて、解説していきます。

参考・フォトレジストの組成

なお、フォトレジストの原料は使用する光源によって特色ありますが、今回は材料別に紹介しています。

フォトレジスト関連メーカー:ポリマー

まずはポリマーについてです。

フォトレジスト用のポリマーは、フォトレジストメーカー各社が独自で内製化しているとの見立てが強いです。

しかし、ポリマーを外販しているメーカーが多いことから、要求性能への合わせ込みがいかに難しいかを物語っています。

また、ポリマーの供給メーカーで特に強いとされるのが丸善石油化学、群栄化学工業の2社です。

丸善石油化学はKrF、ArF、EUVなどの先端向けで世界トップシェアと公表しています。

群栄化学工業はシェアの高さに加えて、全露光波長に対応した製品ラインナップを売りにしています。

機能性モノマー

次にポリマーの原料となる機能性モノマーについてです。

こちらはアクリル系とフェノール系に分かれており、下記の企業がそれぞれの原料を提供しています。

アクリル系
大阪有機化学やセントラル硝子

フェノール系
ADEKAや大日本住友製薬

この中で特に強いと言われているのが大阪有機化学で、機能性モノマーの7割は大阪有機化学製といわれています。

感光剤

次に紹介するのは感光剤です。

感光剤は光反応のトリガーとなる物質の総称で、現在主流である化学増幅型レジストでは主に光酸発生剤(PAG)が使われます。

PAGへの光照射により酸が発生し、この酸がポリマー組成の一部とすることによって、溶解性を変化させています。

PAGの供給メーカーは様々なメーカーがありますが、特に強いと言われているのが東洋合成工業で、メーカー公表値で世界シェア6割とのことです。

新たな展開・EUVへの対応

以上のように、フォトレジストという材料は様々な日本メーカーが関わっています。

しかし、EUVの登場によって転機が訪れています。

EUV(Extreme Ultra Violet)の波長と解像度

EUVの波長は13.5ナノメートルとArF光源よりも10倍以上波長が短いのですが、オランダのASML社がEUV露光装置の開発に成功して以来、さらなる微細化を実現するアイテムとしてEUVレジストに注目が集まっています。

化学増幅型・ポリマータイプの課題

ところが、これまで主流であった化学増幅型のポリマーの組成では、EUVには限界が来ているといわれています。

限界点の一つが、パターン形成の精度です。

線幅が細くなるほどパターンの淵部分の粗さ(ラフネス)が無視できなくなってくるのです。

ポリマー型と金属酸化物のレジストの比較

そこで、新たな材料として提唱されているのが金属酸化物レジストです。

これまでの化学増幅型レジストでは、感度・解像度・ラフネスのバランスを取るのが難しいとされてきました。

ところが、金属酸化物レジストはEUVに対する感度が高いため、光が当たった部分だけをピンポイントに反応させることができ、ラフネスを抑えることができるとされています。

FSRの金属酸化物レジストへの投資

そんな金属酸化物レジストですが、技術的に先行しているのはInpriaというアメリカの会社といわれています。

そして、インプリアを2021年に買収したのが、フォトレジストのトップメーカーであるJSRです。

また、ニュースベースですが東京応化工業も金属酸化物レジストへの参入を表明しているとのことから、今まさに開発が激化している分野と言えるでしょう。

今後のフォトレジスト動向:化学増幅型・低分子

もう一つの材料として提唱されているのが、化学増幅型の有機低分子レジストです。

詳細は出ていないものの、光により分子ガラスを形成する材料のようです。住友化学が開発を表明しています。

住友化学は半導体材料事業の拡大に積極的なこともあり、今後の展開に期待したいところです。

最後に:これまでのフォトレジスト業界

以上、フォトレジストの概要から関連メーカー、そして最新トレンドのEUVへの対応について説明してきました。

フォトレジストはこれまで日本メーカーの独壇場とされ、かつ関連メーカーも日本が強いという業界でした。

ところが、EUVという新しい風が吹いたことで、このフォトレジスト業界にゲームチェンジが起ころうとしています。

次は何の材料が主流になり、どのようなメーカーが台頭するのか目が離せません。

私としては、今後もフォトレジスト材料は日本メーカーが強い分野であってほしいと願っています。

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