今回は現役研究者視点の化学メーカー研究と題して、クラレについて取り上げたいと思います。
動画で解説:ポバールを軸に世界首位製品を多数持つクラレの事業内容・強み・年収を徹底解説!【化学メーカー研究】
動画で見たい方はこちらからどうぞ。
クラレといえば•••

皆さんは、クラレと聞いて何をイメージするでしょうか?
クラレといえばミラバケッソのCMでおなじみ、アルパカのイメージが強い人も多いのではないでしょうか。
でも実はクラレは、世界ナンバーワンの製品を複数持つ機能性化学メーカーでもあります。
そんなクラレの概要から、主力事業であるビニルアセテート、そしてクラレが育てる次世代事業について解説していきます。
それでは参りましょう。
クラレの概要

まずクラレの概要になります。
会社名は株式会社クラレ。
設立は1926年です。本社は東京にありますが、クラレ発祥の地は岡山県倉敷市になります。
ちなみに、今の社名は前の社名である、倉敷レイヨンが由来になっています。
クラレの従業員数は1万1906人、連結売上高は7800億円と、1兆円には届かないものの大手と言っていいレベルの規模を誇ります。
クラレの海外展開

クラレの業態の特徴として、海外売上比率の高さがあります。
欧州、北米、アジアなど世界中に拠点を持っており、海外売上比率は約80%を誇るグローバルメーカーです。
クラレの事業セグメントと代表製品

クラレの事業セグメントは大きく4つに分かれています。
ビニルアセテート部門、イソプレン部門、機能材料部門、繊維部門です。
全ての事業セグメントにおいて、世界シェア1位の製品を持っているのも強い点ですね。
製品構成は、クラレの代名詞であるビニルアセテートを主軸に、イソプレンやメタクリルなどのケミカル、歯科材料や人工皮革のクラリーノ、活性炭など多岐にわたります。
マジックテープの豆知識

ちなみにマジックテープという名前に馴染みがある方も多いかと思いますが、マジックテープはクラレの商標です。
一般名称は面ファスナーなんですね。
クラレの業績

次にクラレの業績を確認します。
ここ9年間の推移では売上は右肩上がりと言っていいレベルにあります。
営業利益についてはコロナショックの影響を受けたものの、浮き沈みが多い化学メーカーの中では堅調に稼げています。
営業利益率は概ね10パーセント前後で推移しており、製造業の中では稼ぐ力が高いメーカーと言えます。
セグメント別の業績

一方でセグメント別の業績を見てみますと、売上高構成の半数をビニルアセテートが占めていることがわかります。
営業利益のほとんどをビニルアセテート部門で稼いでいることから、利益構成はさながらビニルアセテート一本足打法と揶揄されることもあります。
クラレのビニルアセテート詳細考察

そんなビニルアセテート事業ですが、そもそもビニルアセテートとは何なのか。という概要から下記2点の順で詳細を考察していきます。
- 本事業におけるクラレの強さの秘訣
- 今後もクラレがビニルアセテート事業で勝ち続けられるのか
ビニルアセテート概要

ビニルアセテート部門において、主力製品となるのがポリビニルアルコール、通称ポバールです。
構造としてはビニルアルコールを反応した形なのですが、ビニルアルコールは単体で不安定な物質のため、ビニルアルコールからポバールを直接製造することはできません。
そのため、酢酸ビニルを重合させてポリ酢酸ビニルを作ったあと、ポリ酢酸ビニルのエステル結合を加水分解(けん化)することで製造します。
また、クラレの事業がビニルアセテートと言われるのは出発物質の酢酸ビニルが由来になっています。
ポバール(PVA・ポリビニルアルコール)概要

ポバールは、下記の他の樹脂にはないユニークな性能を備えています。
- 水に溶ける性質を持つ数少ない樹脂であること。
- 一般環境下では安定する一方で、水中では分解すること。
- フィルムの透明性が高く、ガスバリア性を持つこと。
これらの性能はポバールの設計や製法を変えることでコントロールしており、接着剤やフィルム、繊維やバインダーなど多岐にわたる用途に展開されています。
クラレのビニルアセテート部門・主力製品

ビニルアセテート部門において、ポバール全体のシェアは約40%と世界トップです。
他にも、高機能グレードである光学用ポバールフィルムが世界シェア80%、エチレンを変性させたエバールが世界シェア60%と、非常に強いラインナップを持っています。
ビニルアセテートにおけるクラレの強さの源泉

クラレがビニルアセテート事業で強い理由をクラレの沿革から紐解いてみます。
1949年頃、社名を倉敷レイヨンに変更した直後にビニロン繊維を事業化しました。
このビニロン繊維の原料がポバールであり、クラレは1958年にポバールを事業化しました。
1960年代以降はビニロン・ポバール関連の開発競争が激しく、他社が海外からの技術導入を進めたり、コモディティ化による撤退を余儀なくされたのに対して、クラレは一貫して自社開発にこだわり、ポバール関連の事業を継続し続けた実績があります。
ビニルアセテートにおけるクラレの強さの源泉

さらに、開発で築き上げた特許網は1972年に事業化したガスバリア材料のエバール事業化にも一役買っております。
エバールの食品包装用に関わる特許が、当時の競合であったデュポン社よりも35日早く公開されたことで、デュポンがエバールの事業化から撤退したという事例もあります。

クラレはこのような開発力、特許網をベースに海外展開、周辺技術展開を進めることで、現在の強固なビニルアセテート事業を作り上げたというわけです。
工学用ポバールフィルムの優位性

機能性材料を深掘りしていきます。
光学用ポバールフィルムはそもそも製造が難しい上に、クラレが主力とする大型液晶ディスプレイ用途は高い品質が求められます。
また、ユーザーごとの細かく厳しい要求をクリアする必要があることから、自社で評価できる体制の構築も必要になります。
その中でクラレは長年培った技術力をフルに発揮し、世界シェア80%を獲得しています。
エバール(EVOH)の優位性

また、クラレが開発・製造しているエバールは材料自身にも優位性があります。
- ガスを通しにくい
- 加工しやすい
- 近年注目されているモノマテリアル(単一素材)包装に唯一対応できる
- 包装の主力材料であるポリオレフィンのリサイクルを阻害しない
上記のような優位性から、エバールはさらなる需要が期待されています。
ビニルアセテート事業の懸念材料

好調なビニルアセテート事業ですが、もちろん懸念材料もあります。
懸念点は大きく2つあり、1つは中国勢の台頭、もう1つは有機ELディスプレイの登場・普及です。
下記から詳しく解説していきます。
脅威1:中国勢の脅威

まずは、中国勢の台頭についてです。
昨今の化学品プラント建築ラッシュにより基礎化学品の需給バランスが大幅に悪化しています。ポバールも例外ではありません。
中国勢に関してはクラレも認識しており、ポバール全体、そしてビニロン繊維に関しても、中国を除くシェアが書かれています。
汎用品分野での競争が激化する中、クラレは高機能化路線を強化することで対応しています。もともと高品質・高付加価値分野に強みを持つクラレにとって、中国勢の台頭は限定的な影響にとどまるため、クラレのロードマップにはそれほど影響がないと考えます。
脅威2:有機ELディスプレイの登場・普及

続いてもう1つの懸念点である有機ELについてです。
そもそも、光学用ポバールフィルムは液晶ディスプレイの必須材料に使われる偏光板の構成材料の一つです。
しかし、有機ELディスプレイは構成によっては偏光板を使用しません。
そのため、有機ELディスプレイの普及は光学用ポバールフィルムの需要低下要因、ひいてはクラレのビニルアセテート一本足打法終了の合図と言われています。

ところが、ディスプレイデバイスの世界市場推移を見てみると、直近4年間の予測で言うと液晶ディスプレイは横ばいとなっています。
実際に、有機ELディスプレイは液晶ディスプレイと比較してもかなり割高でそう簡単には入れ替わらないとの見立てが強そうです。
有機ELディスプレイの技術革新による価格破壊は考慮する必要がありますが、少なくとも数年スパンでは堅い需要があるとみてよさそうです。
事業ポートフォリオ変革から見る次世代製品

ここまではビニルアセテート事業の話でしたが、クラレとしても次の事業を育てる計画をしています。
クラレの事業を下記3点から評価して、上図の中でも成長拡大事業に取り上げている事業を見てみましょう。
- 経済的価値
- 市場成長性
- 社会環境活動
クラレが成長・拡大事業に掲げる次世代製品

クラレが成長拡大事業に掲げた次世代製品について、ビニルアセテート関連以外の製品を4つ抜き出しました。
それぞれ歯科材料、液晶ポリマー繊維、耐熱性ポリアミド、活性炭になります。
いずれもクラレが独自に強みを持ち、市場ポジションが高く、市場も右肩上がりに成長している事業になります。
ですが、この中でも特にPFAS対策の材料として高い成長が見込まれると考えられるのが、活性炭です。
PFAS:Per – and PolyFluoroAlkyl Substances

PFASとは、パーフルオロアルキルサブスタンス、有機フッ素化合物の総称になります。
フッ素に由来するユニークかつ高い性能を複数持つことから、様々な用途で使われています。
特に撥水・撥油性が重宝されることが多いですが、その一方、フッ素原子に由来する化合物の耐久性の高さから、環境中に放出されると分解しない永遠の化学物質とも呼ばれます。
さらにこのPFAS、水に溶けやすく体内に蓄積しやすい上に、PFASの一部組成では毒性もすでに確認されているということから、2024年4月にアメリカで大規模な規制がかかることになりました。
米国飲料水の新PFAS規制

その内容が、アメリカの飲料水におけるPFAS各物質の基準値を厳しく設けるというものです。
そして、アメリカではこのPFAS対策として、なんと5年間で最大100億ドルの助成金を設定するということになっています。
PFASの除去方法と活性炭の優位性

PFASの除去方法については複数の方法が提案されていますが、活性炭は再賦活処理と回収したPFASの分解工程を兼ねることができるという点で、他の方法よりも有意性が高いといわれています。
活性炭を扱う事業部の売上高成長

そしてPFAS関連の活性炭を取り扱う環境ソリューション事業部の売上成長見込みですが、活性炭関連はなんと年成長率を20%から40%で見積もられています。
この成長率がAI関連に使用するGPUと同程度であることからも、活性炭事業がいかに期待を寄せられているかがわかります。
まとめ

ここ3年間で、クラレは右肩上がりの成長を見せており、株価が倍になるダブルバガーも達成しています。
クラレは、上記で紹介したビニルアセテート主力製品や次世代製品を伸ばしてさらなる飛躍となるのか、今後も注目できる企業だと考えます。
クラレの年収

最後にクラレの年収を見ていきます。
平均年収は784万円。化学セクターにおけるランキングは22位となっています。
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